生命医科学研究科 医生命システム専攻 分子生命分野 山本洋さん(2013年度卒)、谷川哲也さん(2014年度卒)、雲井香保里さん(2016年度卒)、髙橋美帆 助教、西川喜代孝 教授らによる二つの研究成果が、Biochemical and Biophysical Research Communications誌にそれぞれ掲載されました。
山本洋さんと雲井香保里さんは、発展途上国を中心に蔓延しているコレラ制圧を目的とし、コレラ菌が産生するコレラ毒素(Ctx)の毒性を阻害するペプチド性化合物(NRR-tet)を同定しました(論文1)。NRR-tet の薬効を評価するためのヒト下痢症のモデルとして、マウス腸管内にCtxを直接投与する腸管ループモデルを使用しました。Ctxは腸管上皮細胞の傷害を引き起こし、腸管内に著しい水分貯留を誘導しますが、NRR-tetはこれらの症状を顕著に抑制することを見出しました(下図)。さらに、NRR-tetのCtx阻害機構を詳細に調べたところ、NRR-tetはCtxの受容体結合部位に結合することで、Ctxの細胞内輸送異常を誘導し、Ctxをリサイクリングエンドソームと呼ばれるオルガネラに顕著に貯留させること、その結果細胞内での毒性発現を阻害すること、を見出しました。
発展途上国で問題となっている乳児下痢症や、日本で見られる旅行者下痢症の主要な原因菌である腸管毒素原生大腸菌(ETEC)は、易熱性エンテロトキシン(LT)を産生します。LTはCtxと非常によく似た構造と機能を有しています。谷川哲也さんは、LTの受容体結合部位に結合し、その細胞毒性ならびに腸管ループモデルでの水分貯留を顕著に阻害するペプチド性化合物(GGR-tet)を同定しました(論文2)。GGR-tet はNRR-tet と1アミノ酸の違いしか持たないにも関わらず、Ctxの細胞毒性はほとんど阻害しません。このことは、構造と機能が非常に類似しているCtxとLTに対し、それぞれに特異的な阻害剤が創出可能であることを示しています。
現在、抗生物質に対して耐性を示すコレラ菌やETECの出現が世界的な問題となっており、本研究で得られたペプチド化合物は、新たな治療薬候補となることが期待されます。
研究内容の詳細は以下の関連情報をご覧ください。
関連情報
論文1
論文タイトル:Tailored multivalent peptide targeting the B-subunit pentamer of Cholera toxin inhibits its intestinal toxicity by inducing aberrant transport of the toxin in cells.
著者: Miho Watanabe-Takahashi*#, Kahori Kumoi*, Hiroshi Yamamoto*, Eiko Shimizu,
Jun Motoyama, Takashi Hamabata, and Kiyotaka Nishikawa#
*Equal contributor, #Corresponding author
雑誌: Biochemical and Biophysical Research Communications
DOI: 10.1016/j.bbrc.2024.149991
論文2
論文タイトル:A tetravalent peptide efficiently inhibits the intestinal toxicity of heat-labile
enterotoxin by targeting the receptor-binding region of the B-subunit pentamer
著者: Miho Watanabe-Takahashi⁎#, Tetsuya Tanigawa⁎, Takashi Hamabata,
Kiyotaka Nishikawa#
*Equal contributor, #Corresponding author
雑誌: Biochemical and Biophysical Research Communications DOI: 10.1016/j.bbrc.2024.150769