細胞内に存在するタンパク質の品質は巧妙に管理されており、タンパク質が変性するとタンパク質分解系であるユビキチンープロテアソーム系とオートファジーにより分解除去されて、タンパク質恒常性(proteostasis)が維持されています。proteostasisの破綻は、変性タンパク質が細胞内に蓄積することで神経変性疾患をはじめとする様々な疾患を引き起こします。このようにproteostasisにきわめて重要な機能をもつプロテアソームですが、加齢や薬剤で分解活性が低下すると、転写因子NRF1 (NFE2L1)がプロテアソーム遺伝子群の発現誘導を介して活性低下をレスキューすることが知られていました。この生体応答をproteasome bounce-back responseとよびます。今回、畠中君はNRF1がさらに近年注目されている選択的オートファジーの1種であるaggrephagyも活性化しproteostasisを維持することを発見しました。詳細に解析した結果、NRF1によるaggrephagy活性化メカニズムの実態は、分解タンパク質のレセプターであるp62 (Sequestosome1)とオートファゴソーム構成因子GABARAPL1の発現誘導にあることも解明しました。以上の結果は、プロテアソームとaggrephagyの機能連関メカニズムの解明にあたります。さらに本知見はproteostasisの破綻による疾患発症メカニズムの理解とそのような疾患に対する新たな治療法創出につながることが期待されます。実際、NRF1は抗がん剤として臨床応用されているプロテアソーム阻害剤Bortezomib (商品名 Velcade) に対する治療抵抗性に関わると考えられています。
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論文タイトル
The transcription factor NRF1 (NFE2L1) activates aggrephagy by inducing p62 and GABARAPL1 after proteasome inhibition to maintain proteostasis
著者
Atsushi Hatanaka, Sota Nakada, Gen Matsumoto, Katsuya Satoh, Iori Aketa, Akira Watanabe, Tomoaki Hirakawa, Tadayuki Tsujita, Tsuyoshi Waku, Akira Kobayashi
雑誌
Scientific Reports, 13, 14405 (2023)
関連情報
DOI : 10.1038/s41598-023-41492-9