生命医科学部

医生命システム学科/大学院 医生命システム専攻

DEPARTMENT OF MEDICAL LIFE SYSTEMS / GRADUATE
SCHOOL, MAJOR OF MEDICAL LIFE SYSTEMS

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生命医科学研究科 医生命システム専攻 分子生命分野 池上 葵さん、石田 就也さんらの研究成果がBiochemical and Biophysical Research Communications誌に掲載されました。

生命医科学研究科 医生命システム専攻 分子生命分野 池上 葵さん(博士課程3年)、石田 就也さん(2020年度卒)、高橋 美帆 助教、西川 喜代孝 教授らの研究成果がBiochemical and Biophysical Research Communications誌に掲載されました。

慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞ががん化することで白血球が異常増殖する疾患です。CMLは、BCR遺伝子とABL遺伝子とが融合したキメラ遺伝子から産生される、BCR-ABLによって引き起こされます。現在治療薬として、チロシンキナーゼであるABLの阻害薬が使用されていますが、薬剤耐性の出現が大きな問題となっており、新たな薬剤の開発が求められています。

本研究室では、これまで病理的な機能が不明であった、BCR上に存在するPHドメインに着目し、このPHドメインが、ミトコンドリア内膜特異的リン脂質であるカルジオリピン(CL)や、複数のリン酸基を持つイノシトールリン脂質(PIPs)と強く結合する能力を持つことを明らかにしました。さらに、BCR-ABLを発現する細胞を用いてミトコンドリア障害を与えた際には、BCR-ABLがPHドメインを介してミトコンドリア外膜に速やかに移行すること、その結果障害をうけたミトコンドリアの除去(マイトファジー)が阻害され、活性酸素の産生が増加すること、を見出しました。一方で、CML細胞では常に高レベルの活性酸素が維持されており、この活性酸素がCML細胞の増殖に重要であることが指摘されていました。このことは、BCR-ABLのミトコンドリア移行が活性酸素産生を介して、CML細胞の増殖に関与している可能性を示唆しています。しかしながら、このPHドメイン依存的なBCR-ABLのミトコンドリア移行の分子機構は不明でした。

本論文では、PHドメイン単独でも障害に伴うミトコンドリア移行が起こること、遺伝子操作によりCL合成酵素の発現を抑制し、細胞内のCL量を減少させると、PHドメイン単独ならびにBCR-ABLのミトコンドリア移行が著しく阻害されることを見出しました(図)。このことは、障害によってミトコンドリア外膜に表出したCLをPHドメインが認識し、BCR-ABLのミトコンドリア移行が起こること、PIPsはこの移行には関与していないこと、を示しています。本知見は、CML細胞の増殖におけるCLの重要性を明確に示すものであり、これまでにない創薬コンセプトの創出に直結すると期待できます。

関連情報:

論文タイトル:Trans-localization of p210 BCR-ABL to the mitochondria is mediated by the

interaction of its PH domain with cardiolipin exposed on the outer membrane.

著者: Ikegami A., Ishida S., Kono N., Okuda Y., Omi J., Watanabe-Takahashi M. *, Nishikawa K. * 

*Corresponding author

雑誌: Biochemical Biophysical Research Communications, 2025 Nov 8:788:152819.

DOI: 10.1016/j.bbrc.2025.152819